チビすけ飛行訓練場

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DCSで学ぶ、現代における空戦の基本(BVR)

こんにちは、チビです。

突然ですが、ゲーム・映画・漫画などで「戦闘機同士の空戦」を目にしたことって、男の子なら誰しも一度くらいはきっとありますよね。そんな「空戦」、どんなイメージですか?

後ろを取られた!」「なんて機動性だ!」みたいな台詞を叫びながら、至近距離でドッグファイト…的なイメージを持っている方が多いかと思います。

ごめんなさい。実はそれ、かなり間違った先入観です。

 

いや、完全に間違っているわけではありません。昔の空戦は大体それで合っているんですが、現代の戦闘機(具体的には第3~4世代以降)はそうではありません。

DCSで「なかなか空戦が上手くできないなぁ」と感じている方も、現代の空戦における認識がそもそも間違っているかもしれません。

分かりやすさ重視で書いているつもりですが、今回は内容が内容ですので、かなり複雑な解説になってしまっています。お時間のある時にお読みください。

 

 

そもそも現代の空戦って、どういう風に戦ってるの?

現代の軍用機は、軒並み強力なレーダーや長射程のミサイルを装備しています。これが意味するのは「肉眼では見えないほど遠い距離から、既に戦闘が始まる」ということです。

それこそ二次大戦以前では、空戦は目視で敵機を確認するのが当たり前でした。しかし今日における空戦ではむしろ、目視確認の方が珍しいです。

 

現代における空戦というものは、大きく分けて3つの段階があります。

  1. 電子戦EW - Electronic Warfare)
  2. 視程外戦闘BVR - Beyond Visual Range)
  3. 視程内戦闘WVR - Within Visual Range)

EW→BVR→WVRという風に、距離が近づくにつれて戦闘の形態が変化します。厳密には戦闘の順序はこの通りとは限らないのですが、このブログは「分かりやすさ重視」を目指しているので、誰でも理解しやすいようある程度崩して解説します。

今回は①と②を詳しく見ていきましょう。③は別の記事で解説しようと思います。

 

電子戦

空戦でまず初めに行われる電子戦は、線引きが非常に曖昧かつ多種多様な方法で行われる戦闘です。

ECMを使って相手の早期警戒レーダーや戦闘機のレーダーをかく乱する、ステルス技術を用いて相手の防空網をかいくぐる、相手の通信網をジャミングして連絡を麻痺させる、衛星を用いて相手の戦力を把握・またはそれを阻止する、等々…

殺傷能力のある戦闘機同士がぶつかり合う前段階の戦闘であることが多く、対レーダーミサイルで相手の地対空ミサイル(SAM)を無力化する防空網制圧(SEAD)も電子戦とみなされる場合があります。

また、広義にはチャフ/フレア(カウンターメジャー)を用いてミサイルを回避する行動も電子戦の一種です。

相手に偽の情報を流して作戦そのものを破綻させたり、電子技術を用いて情報を収集する行為(SIGINTELINT)も、ある種の電子戦と言えますが、ここまで来ると空戦からはかけ離れてしまうので、また別の機会に。

 

BVRにおける戦術

単純な戦闘行為だけ見たとき、まず始まるのがBVR戦闘です。分かりやすく言えば「お互いに射程の長いミサイルを撃ち合う」段階です。

BVRには、ミサイルの性能母機の推力味方間の情報共有能力など、様々な要素が存在し、一口で解説することは困難です。しかし、BVRにおける共通の概念があります。それは「最終的にミサイル本体に込められた運動エネルギー量が高い方が勝つ」です。難しく聞こえますが、要は「ミサイルをどれほど遠くに飛ばす力があるか」です。

 

ミサイルの運動エネルギー

空戦を追求していくと、ある一つの要素に必ず辿り着きます。

それは運動エネルギーです。あまりにも重要なので大きく書きました。

BVRとは、言ってしまえば「運動エネルギーの微妙な競り合い」です。

 

空対空ミサイルのロケットモーターは最初の数秒間しか燃焼せず、発射後の大半の時間は滑空していきます。つまり加速できるのは最初だけで、一度失速したら運動エネルギーを回復できず、そこで終了です。

運動エネルギー(Kinetic Energy)と言うのは、簡単に言えば飛翔体の速さです。ミサイルや航空機のエネルギー量は、速さと高度で決まります。ミサイルは、より速くより高度が高いほど遠くに届きます。敵機にミサイルを当てたければ、いかにミサイルを失速させることなく敵機まで到達させるかが重要になります。

 

ミサイルを命中させる

命中させるためには、ミサイルを撃ち出す機体(母機)は出来る限り速度と高度を稼がないといけません

高度が高いほど空気が薄くなって空気抵抗が減るうえ、高い位置から下に向かって滑空する形になるので重力が引っ張ってくれます。

また、撃ち出す際の母機の速度が速いほど、その分ミサイル自身も速くなります。ボールを棒立ちで投げるよりも、助走をつけて投げた方が遠くまで飛ぶのと同じ原理です。

BVRで勝つためには、相手よりも多くのエネルギー量を稼がなければいけません。AIM-120やAIM-54などが直線ではなく山なりに飛んでいく(ロフトする)のはこれが理由です。

Aはエネルギー量が大きく、Cを撃墜できる。Bはエネルギー量が少なく現時点でミサイルを撃ってもCに当たらないが、CのミサイルはBに命中する可能性が高い。

 

ミサイルの回避

BVRにおけるミサイルの回避は「相手のミサイルの飛翔速度を自機が上回った時点」で成功です。先述の通りミサイルはだんだん減速していくのに対し、航空機はエンジンによる推力があるので加速ができます。ミサイルを回避する上で重要なのは「①高度を下げる」「②速度を稼ぐ」「③背中を向ける」です。

①は、空気が濃い低空に引きずり降ろして失速させやすくします。②はミサイルを振り切るために速度を上げます。そして③はミサイルからの距離を稼ぎます。

③については「えっ?背中向けちゃダメじゃない?」って思うかも。でも正解です。距離が離れていれば、後ろからミサイルを被弾する事はほぼあり得ません

 

相手がAMRAAMのようなアクティブレーダー誘導(ARH)方式のミサイルの場合、警報が鳴ってからの回避では、ほぼ確実に手遅れです。また、R-27ETのようにそもそもミサイル発射警報が鳴らないミサイルなどもあります。

相手がどのタイミングで撃ってきたのかをきっちり把握・予測し、相手が発射したと判断したらすぐに回避機動に入らねばなりません

 

基本的にミサイルは、目標の未来位置を計算しながら誘導します。ゆえに、撃ち出されて間もない段階で急旋回を行うと、ミサイル側が予想する未来位置が急変し、ミサイルを大きく振り回す事が出来ます。

相手のミサイルを急激に旋回させる事よって、運動エネルギーを著しく低下させることが可能。2の図では、機体がミサイルの速度を上回っているので、急減速や左への急旋回を行わない限りは被弾しない。

ただし、相手との距離が近づくにつれて未来位置の差が少なくなっていきますし、ミサイルのエネルギー量も多くなって行くので、回避の成功率は下がっていきます。

相手のミサイルのエネルギーを減らす以外にも、山などの陸地を盾にしてミサイルのシーカーを遮ったり、ミサイルを山に直接衝突させるテレインマスキングTerrain Masking)もしくはNOENap Of the Earth)と呼ばれる戦術もあります。

 

相手のミサイルにエネルギー量で勝てないと判断した場合は、チャフフレアなどのカウンターメジャーを使用します。大抵の場合は、回避の成功率を上げるためにビーミング(Beaming)もしくはビーム機動(Beam Maneuver)と呼ばれる機動と併用されます。

ビーミングとは「目標に対し左右どちらか90度の角度を維持する」という機動です。パルスドップラーレーダー近づいている最中or遠ざかっている最中の目標しか探知できないため、ピッタリ垂直を維持するとレーダーは目標を探知できなくなります。この状態でチャフを撒くと、ミサイルは急に目標が分裂したと勘違いします。そして、チャフに向かって突き進んでしまうわけです。

ちなみに、カウンターメジャーを使用しないと回避できない射程の事をMARMinimum Abort Range)と呼びます。MARの外に居る限りは、カウンターメジャーを使用せずとも回避機動のみで回避ができます。MARはミサイルの種類や交戦する速度・高度によって変動します。

 

BVRで勝つためには

BVRで相手に勝つためには、上述の攻撃と回避を応用し、相手を不利な状況に追い込む必要があります。

よく使われる戦術としてクランキング(Cranking)またはクランク機動(Crank Maneuver)と、チープショット(Cheapshot)があります。

 

クランキング

クランキングとは、ミサイルを誘導しながら回避の準備をする機動です。私が知る限り、BVRにおいて最も効果的な戦術です。 今回は、AMRAAMを搭載しているという想定で話を進めます。

下の図では、紫色の線が自機のレーダーの視野角を表しています。

①有効射程まで近づいたらミサイルを発射 ②自機のレーダー視野角の端ギリギリに敵機が来るように旋回 ③相手のミサイルを回避するために離脱

ミサイルを発射した直後すぐに左右どちらかに旋回を行い、目標がレーダーの視野内にギリギリ収まる角度を維持します。例えばF-16Cのレーダーは左右に60度ずつ視野角があるので、58~60度くらいを維持します。

ミサイルがピットブル(アクティブレーダー)に切り替わるまでその角度を維持し、切り替わったら敵機に背を向けて離脱します。必要があれば、そのまま反転してもう一度交戦を行います。

ミサイルを発射した直後の旋回を行う際、高度を下げてミサイルを低空に引きずり降ろすのも効果的です。

 

チープショット

チープショットは、当てる気のないミサイル、すなわち牽制弾です。早い段階で撃っておけば、相手が予想していなかった場合「やべえ、撃って来た!」と焦って回避します。相手が撃つ前に回避をさせられますし、相手が回避行動を終える前にこちらは有利な状態で距離を詰めることができます。

チープショットで上手く相手をかき乱せれば、相手が反撃しようと頭をこちらに向けた瞬間に次弾が相手を仕留める、なんて事もできたりします。

この戦術は、確実に相手を撃墜するというよりは制空権を広く確保するような作戦で用いられる場合が多いです。

 

BVRからWVR

BVRで決着がつかず双方が近づいて行き、ついにマージ(MERGE)するとWVR、すなわちドッグファイトへ移行します。

ドッグファイトは後日別の記事にて解説しようと思いますので、少々お待ちください。

 

 

 

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